現在のインプラント

 さて,チタン製インプラントがひとつのブレイクスルーになったことを前回お話ししました。 オッセオインテグレーションと呼ばれている骨との結合様式はインプラント本体と骨とが緊密に結合するため,ある意味自分自身の歯以上に強固であることがわかってきました。また,もう一つの大きな転機として,手術の適応症や方法がかなり詳細な部分までマニュアル化されたということがあります。このシステム化されたインプラントの出現により,比較的簡単な手術で安定した予後が得られることがわかったので,一般臨床医の間でもインプラントの利用が普及していきました。 そして現在ではチタンをベースに表面を様々に加工したものが登場し,数多くの医療器具メーカーが色々なタイプのインプラントを用意しています。

 これだけ種類が多いとどのインプラントを用いればよいのか・・・使用する歯科医師でも迷うところです。さて,どれが最も優れているのでしょう?患者さんにしてみれば非常に関心の高い事かもわかりませんね。しかし,本当のところ比較 するのは容易ではありません。というのはインプラントは骨の中に埋め込みます。骨の状態(簡単に言うと固い骨・柔らかい骨などですね)は人によって様々です。さらに一人の人でも骨の硬さや量は場所によって全く違う場合が珍しくありませんし,歯が抜けてからの期間にも左右されます。 条件がそれぞれ違うものの優劣を判断する・・・厳密には不可能です。おそらく,歯医者さんはインプラントを入れようとするその部分に適したものを選んで入れていると思います。しかし,最も適しているものを入れたとしても,周りの骨が少なくようやく入れたインプラントの予後と,充分に骨の量がある場所に入れたインプラントの予後・・・簡単には比較できません。そう考えますと,どのインプラントが最も優れているかをお話しするのは非常に難しい事がおわかり頂けるでしょうか?

 現実的には,数種類のメーカーの中から適したインプラントを選択して用いておられる先生や,ひとつのメーカーのインプラントを習熟して使いこなしておられる先生が大半だと思います。全てのメーカーを比較してセレクトできれば理想なのかもしれませんが,手術用器具だけでもそれぞれメーカー専用のものが用意されているので,全てを一個人の先生が用意するのは現実的な話ではありません。また, ほとんどのメーカーは,様々な条件に適応できるように1つのメーカーでいろいろなタイプのインプラントを用意しています。現在使われているインプラントは,適応症をよく吟味して手術術式を正確に守っていれば良好な予後が得られるようです。後は使う先生方の好みの問題もあると思います。

  さらに今ではインプラントが骨に結合するのは当然と考えられています。そこでメーカーやインプラント研究者の開発の焦点は,「−インプラントと骨が結合する治癒期間を短くするにはどうしたらよいか,いかに自然の歯と同じように見せることができるか,あるいは骨の少ない条件の悪い部分にインプラントを利用するにはどうしたらよいか−」などということに移ってきているようです。

 他の歯科医院などのホームページを 拝見させていただいていますと,自分の歯科医院で用いているインプラントが最も優れているような書き方をなさっているページもあるようですし,何種類かのインプラントを比較したページもあります。このあたりはそれぞれの先生方によって考え方が異なるようです。私どもの歯科医院では,数種類のメーカーのインプラントを症例によって使い分けています 。

次回はインプラントの予後についてのお話の予定です。