インプラントまとめ

 日本でのインプラント治療は,十数年前までは導入している歯医者さんを捜すのに苦労するほどでしたが,現在ではかなり普及してきました。また,最近ではいろいろなメディアで様々な情報を得ることができるようになりました。 私が大学を卒業した平成4年当時は,大学病院であってもインプラント治療に懐疑的な病院もあったほどです。むしろ,大学病院の方がインプラント治療導入に慎重であったというべきかもしれません。しかし,今では「インプラント専門外来」を設ける大学病院もあるほど普及してきています。また,一般開業医でもインプラントセンターを開設されているところも増えてきています。そして,これまでは無理と思われていた条件の骨などにもインプラント治療が適応されるようになってきましたし,見た目も天然の歯と遜色ない状態をつくる事が可能になってきました。もちろん究極の再生療法は,天然歯の再生なのかもしれませんが,これにはまだ多くのブレイクスルーしなければならない問題点が残されています。そう考えますと,これからしばらくの間インプラント治療はますます拡大・普及していくと思います。
そして,インプラントの用い方もだんだんと変わってきました。
「入れ歯」の替わりから「ブリッジ」の替わりへ…
  このコラムの最初のページでも書いていますが,1990年代,インプラント治療の多くは「入れ歯」の替わりに用いられるケースがほとんどでした。両隣にまだ歯が残っている場合は従来から行なわれていたブリッジという治療法が 第一選択とされていました。―残っている歯を利用して歯のなくなった部分を補うことが出来るのであれば,わざわざインプラントを用いなくても良いではないか―。というのがその当時の大勢を占める考え方だったように思います。しかし,ブリッジという治療法にも欠点はいくつかあります。

両隣に歯がある場合はブリッジという治療が以前は主流でした

 ブリッジの土台となる歯が全く健康な歯である場合,新たに歯を削らなければならないという事態が生じます。きれいな天然の歯と削って冠を被せた歯,どちらが長持ちするでしょうか。削ってしまって冠を被せると言うことはその部分にギャップを持つことになりますので,やはり 虫歯や歯周病のリスクを天然の状態以上に抱えてしまうことになります。 また,歯の数が増えるわけではありません。本来,3本あるべき所を2本で支えたり,あるいは4本あるべき所を2本や3本で支えたり…土台となる歯には今まで以上に噛む力がかかることになります。 もしも,土台となる歯が歯周病にかかっている歯であったりしたら,やはり歯をダメにするリスクは増すことになります。

最近はブリッジが出来るケースでもインプラントを利用することが増えてきています
 その点,インプラントを利用すれば両隣の歯を削らないでよいだけでなく,歯の土台も増えるわけですから,噛む力の負担軽減にもなります。 そのため,最近では両隣に歯があるケースでも,歯がなくなった部分を補う手段にインプラントを用いるケースがかなり増えてきました。裏を返せばこれは,それだけインプラントに対する歯科医の信頼度が上がってきた証拠だと思います。

実際の当歯科医院での治療ケース
骨を作ってインプラントを入れる
 インプラントは骨の中に歯根の代用品を埋め込む治療です。しかし,歯を失った原因が歯周病だった場合,歯の周りの骨が相当吸収してしまっているケースが少なくありません。つまり,インプラントを埋め込むための骨の量が足りないケースです。このような場合にインプラントを用いる場合は,まず埋め込む部分に骨を作らなければなりません。この骨を作る技術が確立されてきたことが近年の大きな進展のひとつだと思います。骨の作り方もさまざまな方法が試行されています。最もよいのは自分の骨が再生すること,それが難しい場合は自分の骨の移植,それも難しい場合は人工骨の代用…現段階ではそれぞれのメリット・デメリットがありますので,いろいろな手法がそれぞれのケースに合わせて使われています。
この骨を作る技術が進歩してきたことでインプラント治療を応用できるケースが非常に広がってきました。数年前ではインプラント治療をあきらめてもらっていたケースでも,今であれば可能になったケースもあります。
治療期間の短縮
 現在,主流となっているチタンインプラントが開発された当初は,埋め込む手術から歯の冠となる部分を作るまで,下の歯で3ヶ月,上の歯であれば6ヶ月の安静期間をとるのが通法でした。ですから,治療を始めてから完了するまではかなりの期間が必要でした。これをなんとか短縮できないか。この点についてもさまざまな改良が施されました。インプラント表面構造(骨と接触する部分)や形態の改良,埋め込む方法そのものの改良などにより,現在では条件がよければその日のうちに冠(仮の冠ですが)を作ってしまうことも可能になりました。安静期間をおく場合でも以前の半分以下の期間ですむ場合が多くなってきています。
さらに最近ではCT解析技術の向上により,歯ぐきを切らずにインプラントを埋め込む治療方法も確立されてきています(ただし,すべてのケースに用いることができるわけではありません)。歯ぐきを切らないことにより,手術後の痛みや腫れが格段に軽減されますので,より患者様には優しい治療法 となっています。

当院での治療ケース

インプラントまとめ
 私たちの歯科医院ではかなり早くからインプラント治療をとりいれてきましたので,初めの頃の患者様ではすでに30年以上が経過しているものもあります。 条件さえ整えばかなり長期間ご自分の歯と同じように使って頂けるわけです。そしてインプラントを用いた治療方法は,より多くの患者様に使用できるように,さらに短期間で体への負担が軽くてすむようにという方向で発展を続けています。しかし,気をつけないといけないことは治療に用いるのですからしっかりとした科学的根拠や安全性が確立されたものでなければなりません。私たちの歯科医院ではやみくもに最先端を追い求めることに重点をおくのではなく,安全性の確立された治療を患者様に提供したいと考えております。
 また,インプラントはあくまで歯の代用品です。もともと歯を失った根本的原因が何であるかしっかり把握しておかなければインプラントを入れたとしてもまた同じこと(インプラントを失う)を繰り返す可能性だってあるのです。ですから, まず私たちの歯科医院では,なぜ歯を失うまで至ったのか,それに対して患者様が改善できることはなんなのかを私たちとともに理解していただきます。そして改善が実践できた次のステップにインプラント治療があると考えています。それをしなければ雨漏りで腐った柱の修理に,雨漏りを直さず柱だけ取り替えるようなものです。ましてや再三繰り返しますがインプラントは異物です。感染にも本来の自分の歯以上に気を配る必要性があります。
 日常の手入れはもちろんのこと,治療がすべて終わった後,定期的に歯科医師や歯科衛生士による検診とプロフェッショナルクリーニングを受けていくことでインプラントの寿命を延ばすことができるのです。インプラントの治療後に生じるトラブルは自分で自覚できない場合が 多く,自覚症状が出てきた時は手遅れな場合がほとんどです。そのためにも定期検診は必ず必要です。ですから治療の終わりが歯科医院通院のスタートといって過言ではないと思います。まめに通院して歯医者をうまく利用して欲しいと思います。
 ここまで現在のインプラントを取り巻く環境についてお話を書いてきました。インプラント治療は適応症を守り後のメインテナンスをしっかりすれば素晴らしい治療法になると思います。しかし, 「入れ歯でない歯ができる!」とそのことばかりにとらわれて過信をしすぎる(インプラントを入れっぱなしにしておく)と,後でひどいしっぺ返しをもらうことがあるのも事実です。その為には後々まで付き合っていける信頼できる歯科医院を見つけ,よく相談した上で治療を うけることが一番であると思います。


  もちろん私たちも, そのうちのひとつの歯科医院でありたいと思っています。